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母の振袖

私は成人式の時に母が二十歳の時に着た振り袖を着ました。
最初から振り袖をあらたに購入することは考えていませんでした。
正直なところ、毎日ポストに入っている振り袖のチラシが不気味でした。
なぜ、この家の娘の成人が近いって分かるの?と。
また振り袖購入の電話も非常に多く、あの時ほど固定電話の着品拒否数が増えた時期はないと思います。
勧誘されればされるほど、母の着物を着たいと思うようになっていきました。
勧誘の電話を切って、DMを破棄しながら着物を着る日を待ち、やっと前撮りの日が来ました。
母は小柄で、私は母より少し身長が高いので、丈が合わないのではないかと心配でしたが、ギリギリ間に合いました。
着付けの時に小さな汚れがあることが分かりましたが、着てしまえば隠れる場所でした。
古い着物独特のにおいは、おばあちゃんの家のにおいに似ていました。
実は当時体調があまりよくなく、着付けの時の記憶は曖昧です。
色んな形のものを、何枚も巻いたり重ねたりしている時「ああ、七五三の時もこんな気分だったなあ…」と思いました。
ぎゅうぎゅう締め付けられながら、二十歳になっても中身は七歳のままなんだなあと苦笑いしました。
母の着物は昭和中期、当時の値段にしても相当高かったようで、着付けの方に「よくこんな帯を取っておられましたね」と言われました。
何のことはない、紫と赤の地味なものだったのですが、見る人が見れば良いものだと分かるようです。
また振り袖も、薄いピンク地に手鞠と鶴、笹の葉が控えめに配置してあるだけの、落ち着いたデザインでした。
近年よくある全体に煌びやかな模様を配置したものとは正反対です。
袖が長くなければ、訪問着に見えるようなものでした。
着物が落ち着いたものだからと、写真を撮る時は傘や本物の鞠などの小道具を派手にしてもらい、色々なポーズを撮っていただきました。
三十も過ぎた今は恥ずかしくて見返せないのですが……。
そろそろこの着物を売る方法を調べなくてはとか。。
なにはともあれ、母が着た着物が、ちゃんと私にも着れてよかったと、今も思います。